最高裁の大岡裁定認知症患者の監督困難と家族免責
認知症の患者が徘徊中に電車にはねられて死亡した事故をめぐり、列車が遅れたり代替えの手配等で720万円の損害を受けたとして、JR東海が訴えていた上告事件について、最高裁第3小法廷(岡部喜代子裁判長)は訴えを棄却しました。一二審ともに家族に責任を認定していたもので、大岡裁定だと思います。
と言うのも民法の規定では、責任能力のない人が第三者に与えた損害は、「監督義務者」が賠償すると規定しているのです。従って一審の名古屋地裁は720万円を妻と子どもに科し、二審の名古屋高裁は妻だけの責任を360万円と認めそれぞれの有責を認めています。
これに対し、最高裁第3小法廷は二人の責任を問わないと逆転判決を下したので、マスコミはこぞってこの判決結果を取り上げています。私は現実にそった、ごく当たり前の判決だと考えています。このような認知症を家族に抱える現実は、市井の至る処で散見されるところであります。
ところでこの最高裁第3小法廷は、岡部喜代子裁判長以下5人の裁判官で構成されています。ご案内の通り最高裁判所は、総勢15人の裁判官で構成されおり、大法廷となれば15人がそろい踏みしますが、その他の場合には、このように5人のチームで判決を書きます。
私も案件毎にこのチームを編成するのかと思っていましたが、そうではなくて、第1小法廷、第2小法廷とこの第3小法廷とはじめから決まっているようです。先の判決は、最高裁第3小法廷の5人によって裁かれたものですが、5人全員の賛成だったとも伝えられています。
さて認知症ですが、生活のよりどころに関与する不動産業は、家庭内のいろいろを垣間見ます。見たくない問題も多いのですが、避けて通れないものもあります。この認知症もその一つで、先日も「母親名義の土地を売ってくれ」という依頼で、その名義人に会うために施設を訪問しました。
天気の良い午前中で、母親は息子さんの依頼を追認しました。その時の写真を撮影して、媒介業務にとりかかりました。場所が良かったのか値段が適正だったのか、程なくして買主が現れました。そこで私は念のために、司法書士を連れて再び介護施設を訪れました。
司法書士の下した結果は、「判断能力なし」というものでした。そのため、急ぎ司法書士に依頼して、家庭裁判所に「成年後見制度」の申請をすることにしました。この段階では、この手以外はありません。判断能力がある段階なら、遺言を書くとか、信託契約をするという手段もあります。勿論急ぐなら。贈与もあります。
私のこれまでの認識では、「成年後見制度」は使えないと考えていました。裁判所で認定を受けるために、2人の医師に診断書を書いて貰うのですが、その間を数ヶ月空けるとかで、診断料も高額で上手く成就しても10ヶ月程度はかかると言われていて、関心は家族信託とかに移っていました。
それが先のケースでは、1ヶ月も要しない速さで、売却の許可まで出ました。一旦成年被後見人に認定されて、次ぎに売却申請をして、これがなかなか受理されないというイメージでした。理由は、被後見人(後見される父母)の財産を減すのは承知できないというものでした。子ども達のお金を使えと
家族が浪費するものではなく、「本人の医療介護のために使う」としても、ダメと言われることが多いと聞いていました。それがつい最近では、売却許可まで1ヶ月程度でおりて来ます。ある意味使い勝手が良くなったかと、胸をなで下ろしました。
ところがまたつい最近の売却相談で、「夫婦共有名義の借家を売りたい」という相談がありました。この奥さんは、介護関係に働いていたようで成年後見制度はご存知でした。「最近は使い勝手が良くなりました」と私が言うと、「成年後見制度」はイヤだと言います。「別の方法を考えて下さい」と言われ、情報を集めてみました。
結果はこの婦人の言うとおりで、3千万円以上の財産がある人の後見人は、弁護士か司法書士がつくそうです。先の例では息子さんがつきましたが、「見守りの専門家」の登場となると、毎月3万円はかかります。年間36万円です。教育と違って、介護は無期限です。何年になるか、分からないのが怖いのです。
そしてオムツ一つを買っても、その領収証を専門家のところへ持参して、本人名義の通帳から引き出すという手間もかかります。当然1年間の収支は、家庭裁判所に報告しなければなりません。こんなやっかいな実務が、待ち構えているのです。奥さんが嫌だというのも、むげのないことです。
更に驚くことは、選任されたプロに悪い評判があったとしても、その決定を変えることはできないのです。資格者は、裁判所によって守られているわけです。仕事が暇なプロをあてがい、裁判所はそれで責任が全うできたというのでしょうか。
こんな背景を抱えた先の最高裁判決、当然と言えばそれまでですが、下級審(家庭裁判所)の「後見人」をつけたら本人のためになるという一つ覚えも却下して、せめて後見人を家族にして下さい。しかしその家族がいなかったら、事態はだんだん深刻になっていますが。