第1853回

釣忍(つりしのぶ)

忍草の根茎を束ね、竹などの芯材に山(やま)苔(こけ)を巻きつけて井桁(いげた)や筏(いかだ)、小舟、屋形船、灯篭と、風流な形に仕立てます。今流でいえばリビングに吊す観葉植物です。

昔、東京の下町では、路地裏に入るとあちらこちらの軒下に釣忍が下げられていました。日盛りの午後、釣忍に水を打ち、風鈴を下げて軒に吊します。葉の明るい緑色が瑞々(みずみず)しく爽(さわ)やかで、風が吹くと涼しげな音(ね)を立てて、蒸し暑さを一時忘れさせてくれます。

陽が落ちかける夕方、釣忍が鳴らす音を聞きながら、縁台で将棋を指して夕涼みする光景がよく見られました。7月の浅草の「ほおづき市」には、出店のお店に釣忍がぶら下がっていました。そう言えば、高浜虚子に「自らその頃となる釣忍」という句があります。気がつくと、今年もまた釣忍の季節がやってきた、という意でしょう。

冷房が普及した現代でも、釣忍があればわずかなスペースを利用して夏の風情を味わえ、都会から遠ざかってしまった緑を楽しむことができます。

毎年決まってやってくる夏の暑さを、いろいろな工夫で楽しんでしまう先人の知恵には、頭が下がります。〈法人会夏号第58号から〉

なかなかいい文章ですね。さらりと書いたエッセイに、ひとときの清涼を頂きました。

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