第3954回

色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年

文芸春秋は、4月に刊行する作家、村上春樹さんの長編小説のタイトルが「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」に決まったと発表しました。それ以降書店での予約や売上げは、常に1位をキープしている。平積みで、電車の中でも読んでいる人が多い待望の小説です。

私も読みました。テレビ番組の影響か、最後の謎解きが無いのは何とももどかしい。これが文学書かとも思うのですが、最近のテレビ番組も巧妙に作られていて、役者を見ただけでは、犯人が誰かがわからなくなっていて、その推理が面白くなっています。

「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」は長いタイトルで、最近の流行だと思うのですが、受け取る方には辛いものがあります。特に私のような、したり顔してどうだこうだと解説をしたがる者にとっては、タイトルが省略してでも短いのが有難い。長いと難儀に思うのであります。第一途中に、句読点が入るのを見たことがありません。

村上春樹さんの、多崎つくる君の口を使って言わんことはわかるところがあります。大学時代、高校3年間の出来事を引きつって生きる場面と、それらを打ち破って新しいことにトライする。大別するとこの二つになると思います。多崎つくる君は、前者のトラウマになっていました。

多崎つくる君は、仲の良かった5人組からパジーされる。1人だけ仲間はずれにされて、名古屋を離れて、1人東京へ行きます。理由もわからず、ひたすら自分を責めて自殺しかねない生活をおくる。その山を乗り越えて、工学部の設計科を卒業し、電鉄に就職し、文字通り「駅舎をつくる」仕事に就きます。

しかし、過去のことを忘れたふりをして生きながら、高校生の多感な自分を精神的に抹殺した原因を知ろうとするようになります。そこがわからないと、自分の将来が無いとまで考えるようになります。そっとしておくべきだいう自分と、今の生活を犠牲にしてでも「原因」を知ろうとするつくる君がいます。

それは多崎つくる君がはじめて愛した女性に、指摘されてのことでもありました。この年頃の男女が思い描く性的葛藤が、シロ(5人組は名字に赤白青黒の字が入っている。多崎君を除いては)の死に関して、自分の彼女に対するレイプが原因であるかの如く理由でパジーされたという証言までにたどり着く。

自分は絶対やってないと主張しながら、性夢ではいつもシロの中で果てているという葛藤が、多崎つくるの行動にいろいろな色をつける。心の中にも色がついていない強い多崎つくるも、事実を追い求めてフィンランド在住のアカのところまで飛ぶ。

最後の謎解きを除けば、現代に生きる者の心の葛藤を上手く描いた作品だと思いました。販売数2位が「海賊と呼ばれた男」となっているようですが、私は海賊と呼ばれた男が1位だと思います。当然2位には、「色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年」が入ります。

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